二人して、薄暗い空を見上げる。
軽く息を吐きながら目を細める美鶴を見て、聡は背伸びをしながら明るく言った。
「夕立みたいなもんじゃねぇ? すぐやむって」
「その根拠は?」
無愛想に問い詰められて、聡はひょいっと首を竦める。
「俺の勘」
途端に教科書をしまいだす美鶴。
「おいっ」
ワケが分からず目を点にする聡の前で、あっという間に片付ける。
「なに? これから帰るの?」
「当然」
何を聞く? と言わんばかりの視線を向けて、美鶴は当たり前のように立ち上がる。
「やむの待とうぜ」
慌てて立ち上がる聡へ侮蔑の視線。
「アンタの勘だと、すぐにやむのよね?」
そうして意地悪く付け足す。
「なら当分やまない。待っていても無駄」
「ひっでぇ〜」
だかそんな聡には目もくれず、スタスタと出入り口へ向かう。開け放していたため、風に乗って雨粒が吹き込んでいる。
「おいっ 傘はっ?」
「ない」
「ないって……… おいっ」
躊躇せず雨の中へ進みだそうとするのを、慌てて背後から捕まえる。あっという間に雨足の強くなった周囲から、なんとか室内へ引き戻す。
「離してよっ」
軽い抗議の言葉にも、さすがに離そうという気にはなれない。
「バカッ! 風邪引くぞ」
背後からその細い両肩に手を乗せたまま、苛立ちを込めて吐き出す。
「駅までなんだし、大したことないわよ。それに、やまなかったらどうするの? アンタだって、傘持ってないんでしょ?」
「駅前のコンビニで傘買ってきてやる。それまで待ってろっ」
六月から衣替えをしてしまい、被って雨を避けられるような上着は着ていない。
肩を掴んだまま強引に椅子へ座らせ、聡は再び出入り口へ向かった。雨が降り込むギリギリのところで振り返る。
「待ってろよ」
だが美鶴は答えない。無表情のまま、ただじっと聡を見返す。
聡はしばしその瞳を見つめ、思案し、やがて身体を捻って美鶴の元へ引き返した。
そうして、180cmを超えた長身を屈めて美鶴の顔を覗き込む。
「待ってろよ?」
だが、それでも美鶴は答えない。寄せられた顔を避けるように、あからさまに姿勢を仰け反らせる。
聡は、逃げる小顔へすばやく手を伸ばし、顎を捉えて引き寄せた。
お互いの息遣いを感じることのできるところまで。もう唇が触れ合う程のところまで―――
「逃げたりしたら、明日学校でキスしてやるからな」
双眸を大きく見開き、唖然と言葉を失う美鶴へ微かに笑って、聡は雨の中へと飛び出した。
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